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2001/11/15
 マン島

マン島 TT レースの環境
雑誌「MILLION」より

 イギリスとアイルランドの中間に位置する島「マン島」。この島で行われるツーリスト・トロフィーレース、通称「マン島 TT レース」を見に出かけたのは昨年のこと。
 1907 年に始まったレースは、21 世紀を迎えた現在も(残念ながら今年は家畜の伝染病のため中止)歴史に培われたレースの伝統を色濃く残している。古い発電所を改築し再生した美術館「テートモダン」が象徴するように、様々な分野で伝統があたらしいイギリスにとって変わるなかで、TT レースは今でも「これこそ古き良き時代のイギリス」、掛け値なしにそう断言できる雰囲気を醸しだしている。
 美しい島の公道は、夏のひとときオートバイ乗り達の楽園に変わる。

文章:高安正樹
写真:福岡耕造
協力:ミリオンカード

高安正樹
[編集・ライター]
クルマの写真が全然無いので「ガレージマスター」というよりも、ギャラリーマスターって感じのホームです。気まぐれに、アート系のことなどを紹介していきます。





教会の前の ViewPoint

 なにしろ、1 周が 60 キロもある島の公道を使って行われる TT レースのこと、観戦ポイントは人それぞれだ。スタンド席に陣取る者もいれば、コース脇の民家の庭でガーデンパーティをしながら優雅にバイクの来るのを待つ人々もいる。
 そんな中で、必ず「アソコに行くといい写真が撮れる!」と太鼓判を押されるのが、古い橋を渡るコーナー「ブランデン・ブリッジ」と呼ばれるポイントだ。橋を渡るとカトリックとプロテスタントの教会が仲良く並んでいる。それぞれの教会の中庭には、観戦席が設けられ、通過するライダーを迎える。教会の石塀沿いに置かれた、マン島の紋章が印刷された衝撃緩衝用の麻袋、中身は干し草が詰まっていた。



コースマップ

 TT レースは Douglas の市街地をスタートし、時計回りに島の対岸 Peel に向けて走る。島で唯一の市街地といってもいい Dougla を抜けると、舗装こそされているものの、風景はのんびりとした田舎道そのものになる。道をおおうように茂る大木のトンネルや、牧草地を最新鋭のバイクがかっとんでいく。
 Peel の街の手前で北にコースを変えると、やがて海が見える美しいワインディングになる。そして Ramsey の街。ここを過ぎるとコースはマウンテン区間になる。きつい坂を駆け上がるにつれ、霧が立ちこめ、視界は極端に悪くなることが多かった。そして登山鉄道の線路を越えると、一気に下る。山を下りてくるバイクに陽光が反射するさまは、遠目にはまるで白い鳥が山肌を滑空してくるように見えた。







男性を応援している女性

 古色蒼然としたレースの伝統をいまなお守っているとはいっても、走るマシンはモンスターだ。直線では時速 300 キロで走り抜ける。そんなレースのスタート前、チームのライダーを送り出すスタッフの女性がいた。
 1978 年に TT レースは 2 輪世界選手権から外されている。あまりに性能が向上した現代のモンスターマシーンが走るのには、公道や自然の中を走る TT はオールドスタイルに過ぎるということが原因らしい。それでも、多くのライダーがプライベートのチームを作ってでも参加するのは、管理されたレースコースでは体験の出来ない、自然との、自分との、「戦い」がこのレースには残されているからだ。







サイドカーに乗った家族

 メインスタンドの裏手には、コンマ 1 秒でも速く走るために、懸命にレースマシーンのセッティングに汗を流すチームのテントが並んでいる。オイルの焼ける臭いとエンジン音の響く中で、さまざまなクラスのチームが肩を寄せ合うように軒を連ねている。写真のサイドカーチームは家族でフランスからマン島に乗り込んでいた。
 二輪と四輪のレースしか観たことのなかった私には、サイドカーレースは新鮮だった。ヨーロッパでは盛んにサイドカーのレースがあるらしい。助手席の選手が重心を移動させながらコーナーを走り抜けていく様子はバイクと同じ、でも姿はフォーミラーカーを感じさせるその奇妙な「中間感」がなんともいい。







メインスタンド

 TT レースのメインスタンドは海を見下ろす Douglas の高台にある。幹線道路の「クオーター・ブリッジロード」がスタンド前の長い直線になる。黒く見えるボードの向こう側は、お墓。メインスタンドを離れ、コントロールタワーの屋上へ上らせてもらったら、そこには広大な墓地が広がっていた。なんとも奇妙な公道サーキットだが、私はこの墓地を見た途端に「なんだか TT レースっていいわ」と思ってしまった。西日を浴びたレース後の直線コースでは、人々が右往左往しているが、その先には青々とした芝に墓標が並んでいる。
 数少ない観戦経験しかないが、サーキットってレースが行われている間よりも、レース後や予選日のような、なんだか中途半端な時間が妙に味わい深かったりするのは私だけだろうか。




丘陵地帯

 TT ウイークのマン島に来ている人の大多数は、「バイク持参」である。レース観戦もさることながら、もっぱらの目的はマン島ツーリングである。本戦や予選が開催される時間は、スタート 30 分ほど前からコースになる公道への一般車両進入が出来なくなる。しかし、それ以外の時間は誰もが自由にレースと同じコースを走ることができる。コースを離れて寄り道をすれば、いくらでも美しいワインディングロードがある。そんなツーリングを楽しむ人で、島はどこに行ってもバイクだらけになる。
 夕食時、Douglas のプロムナードに行くと、それこそ何キロにも渡って駐車された大型バイクの列を見ることができる。







ボード

 オールドスタイルの伝統を最もよく感じさせるのがメインスタンド前のボード。TT のためにイギリス各地から集められたボーイスカウトが二人一組で 1 台のマシーンを担当する。一人は周回数を表示する係。あらかじめ決められた周回数分の紙をボードに釘で打ち付け、スタートラインを通過する度にその紙を 1 枚 1 枚はがしていくのが役目だ。
 もう一人は時計係。全長 60 キロのコースを4つに分け、各ポイント通過の知らせを受けると、なんと手回しで時計のように針を進めて現在位置を表示する。黒いボードはレースが行われるごとにペンキで悠長に塗り重ねていた。今時、こんな時代遅れなボードは余所を探してもどこにももないだろうが、頑なに伝統を変えない精神はご立派。







家の前で観戦する人

 4 輪の F − 1 日本グランプリをを青山・六本木の公道でやったら凄いだろうな?!と夢想したことがある。さしずめ青山一丁目のコーナーは「ホンダコーナー」になるのかな、とか。「西麻布でシューマッハがオーバーテイク」とか。これは絶対にありえない夢でしかないが、TT ウイークのマン島では、自宅前を時速 300 キロでバイクやサイドカーが走り抜けていく。超リラックスした格好でレースを観戦するこの夫婦の、なんとも味のあること。このポイントで「マーシャル」を努めていた地元のおじいさんは、60 年以上も前にボーイスカウトとして TT のボード係として参加して以来、毎年レースをサポートし続けていると言っていた。マン島 TT が文化と呼ばれる由縁だろう。

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マン島 TT レースの観客
雑誌「MILLION」より
 残念ながら今年は中止となったマン島レース。その伝統のレースの楽しみ方を見た。

マン島 TT レース 2 Photo Gallery 01
教会の前の ViewPoint
 連載第二回の「マン島の環境」のギャラリーです。

マン島 TT レース TT WEEKのスケッチ
雑誌「MILLION」より
 TT WEEK のマン島では、レース以外にも様々なバイクイベントが企画される。

スペースキッズ
http://homepage1.nifty.com/space-kids/
ライターの高安さんの主催するギャラリー

UFJカード
http://ufjcard.com/
ご協力いただいたミリオンカードの定期発行雑誌「MILLION」はUFJカードになり「NEO」という定期発行雑誌になりました

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