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tab_star2005/12/23tab_endVividStory
クリスマスが待ちきれない - 1987 年の星屑
第 1 章
“Anything can happen in New York”
ニューヨークで生まれたとあるクリスマス・ラブ・ストーリーをあなたに。
作=津島健太( VividCar.com )
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第 1 章page1ニューヨーク・クリスマスストーリー
第 2 章page2ニューヨーク・クリスマスストーリー
第 3 章page3ニューヨーク・クリスマスストーリー
第 4 章page4ニューヨーク・クリスマスストーリー
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tsushima-SS.jpgicon_home津島健太
[VividCar 元編集長・フリーライター]
現在は「港未来シンジケート」代表としてのインディーズレーベルやイベントプロデュース業と平行して、JMS日本モータースポーツ記者会、ナンバー付きVITZレース1000c.c.CUP 代表、vivid car .com 編集長、作詞家、旅のライター等々イカゲソ並みの数の鞋をはいている。
ニューヨーク・クリスマスストーリー

 今年の夏時間は 4 月の 3 日にやってきた。
 分厚いサンデーペーパーの片隅によると、この街の時間が今日から勝手に 1 時間早くなる。その記事はニューヨーク・レンジャーズの逆転勝利よりもずっと小さく、ブロンクス動物園のシルバー割り引きの広告よりも少し大きかった。
 3 年前、つまり僕が東京の本社からニューヨーク支社に転勤になって以来、僕にはこの街で日曜日を過ごす 3 つのルールがある。
 ひとつは目が覚めたらとりあえず外に出て、フランクの店、あ、フランクっていうのは、僕のアパートメントの東側のブロックで働いているバングラデシュ人だけど、そこのニューススタンドでサンデーペーパー、つまりニューヨークタイムズの日曜版を買うこと。フランクっていうのは普段はとてもいい奴なんだけど、日曜日に僕の顔を見ると必ず「ポルノ、ポルノ」って派手な表紙のポルノグラフィーをすすめるのが玉に傷なんだ。この 3 年間、フランクは毎週僕にポルノグラフィーをすすめる。彼にはバングラデシュに残した恋人がいて、 5 年も前からこの店で一番高いポルノグラフィーをたくさん売って、 1 日も早く呼び寄せたいと思っている。
 ふたつめは、そのサンデーペーパーをセントラルパークのベンチでゆっくり眺めること。そして、みっつめはナチュラルヒストリーミュージアムの裏側、コロンバスアベニューのミュージアムカフェでサンデーブランチを食べることだ。
 僕は、今日、はじめてそのみっつめのルールを破った。セントラルパークでみつけた夏時間の記事は、僕の気持ちを一層重くしていた。僕はカフェには行かずにそのまま地下鉄に乗ってグランドセントラルステーションで降りた。ニューズウィークの世界一大きな電気時計、インフォメーションカウンターの金時計、ショーウインドウのクリスタル時計。とにかく街中の時計が、僕が眠っている間に、きっちり 1 時間進んでしまっているんだ。冬時間に出発した大陸横断鉄道は、途中のどこかで 1 時間を振り切って、定刻のホームで息を切らしていた。
 言葉にならない僕の声が、白い息となって漫画の吹き出しのように流れて消えた。
「冗談じゃないよ。」
 どこかの店先から、 CBS ニュースのさわやかな声が聞こえてくる。
“Anything can happen in New York”
ニューヨークでは何かが起きるってね。
「転勤なんて冗談じゃないよ! 」

「いらっしゃいませ、こんばんは。」
「まずお飲物はいかがでしょう ? 」
混雑した店の奥から、店長が呼んでいる。
「少々お待ちください。」
「電話ですか ? ちょっと待っててもらってください。」
「いらっしゃいませ、お二人ですね ? こちらへどうぞ。」
「電話 ? わかってます。すぐ行きますから。」
「失礼しました。御注文は ? 」
「そうですか、それではお決まりになったらお呼びください。」
ナミはカウンターの隅の電話を取る。
「もしもし・・・ごめん、今忙しいの・・・わかった、 11 時ね・・・じゃ、後で」

 トランプスは日曜日の夜ということもあって比較的すいていた。賑やかな 14 ストリートからワンブロック北にあるこの店は、 10 人程度座れるカウンターバーと、店の奥にはウィークエンドに行われる小さなライブスペ—スがある。もともとミュージシャンだったオーナーが仲間とセッションをするために作られたようなこの店は、表に看板もなく、まるで意図的に目立たなく作ったようにも見える。
「ところで何なの ?」
「何が ?」
「何がって呼び出したのはあなたの方よ。」
「別に。」
「別にってことないでしょ。」
「どうして ? 突然会いたくなったらいけないかな。」
「店に電話をかけてくると怒るの知ってるくせに。」
「・・・・ゴメン。」
「・・・・いいけど。」
「オーディションは ? ・・・・・あ、これも聞いちゃいけないんだった。」
「もういいわ。慣れちゃった。昨日も母から電話があったばかり。オーディションはまだだめなのか ? 危ない目にはあってないのか ? もうそろそろ帰ってきて結婚したらどうか ? 」
「・・・・そうか。」
「しょうがないじゃない ! 私だって一生懸命やってるわよ。でもブロードウェイに東洋人の役がほとんどないんだからしょうがないじゃない ! ・・・・あ、ごめんなさい。」
 僕はナミの怒ったようなひたむきな横顔が、スッと伏し目がちな優しい表情になる瞬間が好きだ。
 3 年前、つまり僕がニューヨークに赴任した年の初夏。僕はセントラルパークでサンデーペーパーを眺めていた。セントラルパークのリスたちとも顔なじみになっていた。
「何をしているんですか?」
突然日本語で話しかけてきたのがナミだった。
「シーッ・・・・リスと話をしているんだ。」
「エッ ! 」
「ちょっと待って・・・・大丈夫、彼らも君が悪い人間だとは思っていないようだ。」
 片瀬ナミはリー・セオドアが主宰する”アメリカンダンスマシーン”の日本公演の時にスカウトされたラッキーガールだ。ニューヨークに来て 4 年、 HB スタジオのシェイクスピアのコースを水木の週 2 回、ダンスのレッスンを月金の週 2 回、ボイストレーニングを火曜日と土曜日に受けている。そして夜はと言えば、ブロードウェイのネオンが眩しいレストランでウエイトレスだ。
「どこに住んでるの ? 」
「ウエストビレッジのジェーンストリート。」
「それじゃバイト先のミッドタウンから結構あるじゃないか。」
「うん、でもブロードウェイのそばにいたくて。」
あの時もナミは怒ったようなひたむきな横顔から、スッと伏し目がちな優しい表情に変わった。
「ね、どうしたの ? 黙っちゃって。」
「あ、いや、別に」
「ねえ、何飲んでるの ? 」
「ん ? ああ、マンハッタン」
「相変わらずねえ。あなたはきっと東京に帰るとトーキョーって言う名前のカクテルを飲むんでしょうね。」
「えっ ! 」
「どうしたの ? そんなにビックリして。」
 店の隅のウォーリッツァーのジュークボックスからナット・キング・コールの”モナリザ”が流れてくる。

 モナリザと人は言う
 神秘の微笑みをたたえるあなたはモナリザそっくりだ
 微笑みは恋の誘惑
 それとも失意を隠すためなのか
 多くの夢があなたの戸口で息絶える

「なあ、ナミ。今度の日曜日、どこかへ行かないか ? 」
「どこかって、どこへ ? 」
「いいんだよ、どこだって。どこだっていいんだ。」
「うーん、いいけど。でもどうしたって言うの ? 今日は変よ。」
「いいんだ。どこだって・・・・ここではないどこか。」
「 Anything can happen in New York ? 何が起こるの ? 」
「いや、 Everything can happen in New York. ニューヨークではなんでも起こるんだ。」

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