 |  |  | | | シルバノ・マッツァの靴 | | シルバノ・マッツァの靴 |  | イタリアの「頑靴王」、シルバノ・ソリーニが取り組む ポルシェ、ロレックスのような優れた工業製品としての靴 |  | 選択、文:山口 淳 写真 :四宮義博 協力 :ヒットマン
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|  |  |  |  |  |  | 山口 淳 [ライター] |  |  |  | | 北欧のミッドセンチュリーの頃の椅子やプロダクトに魅せられて、かれこれ 10 年になる。縁あって、雑誌『太陽』の北欧デザイン紀行特集(2000 年 12 月号)の手伝いをしたことがきっかけで、2001 年には池袋コミュニティカレッジの「北欧インテリア入門」という講座の講師を引き受けるという貴重な体験もさせていただいた。正直、後者については、慣れないおしゃべりに加え、体系的に勉強したわけではないので馬脚をさらすのではないかと冷や汗ものだったが、この度、その特集と講座がベースとなった書籍『太陽レクチャーブック 003 北欧インテリア・デザイン』(平凡社)という本が刊行された。主要執筆者は、僕を除けば、島崎信さん、柏木博さん、織田憲嗣さんといった北欧やデザインの優れた識者、論客ばかりで、北欧デザインに興味のある人にとっての格好な入門書に仕上がっている。ご高覧いただければ、幸いである。 |  |
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 |  |  | 我が道を往く、職人肌の男
世の中に靴ブランドは数あれど、その多彩さ、個性の豊かさにおいて、イタリアほどタレント揃いの国はちょっと思い浮かばない。たとえば、イギリスの一流ブランドの靴以上の品質に加えて、アルチザンの国イタリアならではのマニアックさと艶やかな色香を漂わせるシルバノ・ラッタンジ(ジンターラ)。イタリアのクラシックなスーツととても相性のいい、エレガントなエンツォ・ボナフェやストール・マンテラッシ。ステッチワークや後加工による効果が過剰ともいえる存在感に結びついているステファノ・ブランキーニ。あるいは、時代の旬をみるに敏な高感度でスタイリッシュな靴づくりを十八番とするプレミアータ・・・。いずれも独創的なスタイルで観る者を魅了する、それらの靴たちは、どこかカルチョの王国イタリアのタレント軍団セリエ A のクラブチームを彷彿とさせる。 シルバノ・ソリーニ率いるシルバノ・マッツァも、まさにそのタレント揃いの軍団のスター選手のひとりだが、他の多くのブランドが、どこかイタリア独特の空気感や美意識を放っているのに対して、イタリア勢の中にあって、このブランドにはアメリカやイギリスやドイツのプレースタイルを貪欲に吸収して、それを融合させることで自らの独創的なスタイルを作り上げたかのような、ちょっと特異な雰囲気がある。 シルバノ・ソリーニのシルバノ・マッツァというと、多くの人は彼とそのファクトリーが、あのプラダやジル・サンダーの靴を手がけたり、(あくまで噂だが)プラダグループ傘下となった英国チャーチの新しい戦略に関わっているという話を耳にして、あるいは 1990 年代半ば、世界を席捲したスクエアトゥの仕掛人という事実のみにとらわれて、器用なモード系シューメーカーというイメージをお持ちかも知れない。しかし、少なくとも自らの名を冠し、クライアントの束縛も受けることなく自由にモノ作 りに取り組んでいるシルバノ・マッツァに関していえば、そのイメージは少々的ハズレといわざるを得ない。 時代に媚びることなく、己の信念とスタイルを突き進む「頑靴王」、それが、シルバノ・ソリーニとシルバノ・マッツァの真の姿だと僕は考えている。 |
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 |  |  |  | ドライビングシューズとデッキシューズを 融合させたような春夏用のスリッポン |  |
 |  | 正面からの見た目が猿に似ている というモンキーブーツ |  |
 |  | バイクに乗る人のことを 考慮して作られたサイドゴアブーツ |  |
|  |  |  | 新しい工業製品としての靴
そう断言するのは、かつてイタリアはマルケ州のモンテグラナーロにある彼の旧工場(現在はプラダやプレミアータと共同出資で建てた新工場に移転している)を訪れ、彼から直接、聞いた話とその時の彼から受けた印象がその根拠となっているからだ。 シルバノ・ソリーニは、およそ日本人の描くイタリア人のイメージとは、かけ離れた人物だった。とにかく無類の仕事好き。彼の人生にはバカンスなんて存在しない。暇があれば工場に顔を出す現場主義で、しかも靴づくりにかけては、彼の工場で働くどの職人よりも詳しくテクニックも持ち合わせている。また、イタリア人としては珍しく口数も少なく、笑顔もあまり見せない。日本流にいえば、職人肌の頑固親父。その醸し出す雰囲気は、むろん『ライフ・イズ・ビューティフル』のロベルト・ベニーニでもなく、『甘い生活』のマストロヤンニでもなく、どちらかといえば『ゴッドファーザー』のアル・パチーノであった。スポーツは個人競技が好きで、サッカーは嫌い。パスタも嫌い。赤ワインも嫌いというから、イタリア人としては、ちょっと変人の部類に入るかもしれない。しかし、時折見せる優しい微笑みと我々客人をもてなす心づかい溢れた振る舞いから、その男気溢れる人柄は十分しのばれた。
シルバノ・ソリーニは、しかし、インタビューの相手としては、実に手強い相手だった。その時のメモを今、読み返してみても、シルバノ・マッツァの靴づくりに関しての質問以外、まったく愛想がない。とくに、読者の喜びそうな彼のクライアントに対しての質問には一切答えてくれなかった。 「君は、私の靴について話を聞きにきたのだろう」 と、とにかく取りつく島がないのである。 ただ、シルバノ・マッツァという靴が、どういうコンセプトで、彼がどんな靴作りを目指しているかという質問には、とても明快な答えが返ってきた。そして、その答えは、まさにシルバノ・マッツァを、なぜ僕がイタリア靴の中でも特異な存在だと感じたのかという、その核心に触れる回答が含まれていた。 少々、長くなるが、メモと記憶を頼りに引用してみよう。「私には、古典的手法を駆使したハンドメイドの靴を作る腕だってあるんだよ。でも、そういう道を選ぼうとは思わなかったんだ。なぜなら、私が目指したのは、 20 世紀という工業の時代における最高品質の工業製品としての靴だったからだ。効率が良くて、出来がいいならマシンも積極的に使う。でも、いくら能率が良くても手仕事でしかできないのなら、それもいとわない。一定の高い品質を継続的に守れるなら、機械でも手でも私にとっては関係ないことなんだ。 君は、ライカやポルシェをどう思う。リーバイスやロレックスは、とても素晴らしい工業製品だろう。私が作りたい靴とは、そういう優れた工業製品と肩を並べることのできる靴なんだ。むろん、過去の優れた遺産に学ぶところは多いよ。私は、エドワード・グリーンにも、オールデンにも、トリッカーズにも、非常に関心を持っている。目指すスタイルはたとえ違っても、そのオリジナリティの高さ、モノづくりに対する姿勢には学ぶことは多いからね。でも、私は、過去の名品ををそのまま復活させたいとは思わないし、いくら優れているからといって他のブランドのマネをしようとも思わない。それはそうだろう。時代も靴を巡る環境も違うんだから。それに、私は、私だ。シルバノ・マッツァはシルバノ・マッツァだ。シルバノ・マッツァは、他のどの靴とも決して似ていない、私のオリジナル。現在、考えられるベストのやり方で品質を追求した、現代を生きる人たちにとっての最高の工業製品なんだ・・・」
シルバノ・マッツァが本拠を置く、マルケ州モンテグラナーロは、イタリアでは最古の靴産業を興したエリアとして知られているところだ。シルバノ・ラッタンジ、プレミアータも、ここに工場を構えている。そして、ここにはコバの刻みだけを入れる小さな工場をはじめ、大手の下請けをしている小さな工房もたくさんある。シルバノ・ソリーニもまた、この近くの村で生まれ、やはり母親も靴工場の優秀な職人であったという。 彼は、この地で最も良質の靴を生産していたGMエンドレス(現プレミアータ)の先代ヴィンチェンツォ・マッツァの元で、シルバノ・ラッタンジらとともに腕を磨いた。そして、独立して、自らのブランドを立ちあげた時、彼はそのブランド名として、自らのファーストネームと尊敬するヴィンチェンツォのファミリーネームを合体させて、そのブランド名とする。 義に厚い男なのだろう。 イタリア靴の聖地、このモンテグラナーロで、彼が取り組んでいるのは、本人のいうとおり新しい時代の工業製品としての靴である。過去の多くの名靴やさまざまな優れた靴を学び、吸収し、栄養として、しかし、ソリーニは、それらとはまったく異なる、美しくて、機能的で、コンフォタブルで、そしてイタリア靴としては少し骨太なスタイルの独創的な靴を作り続けている。
手元に、別れ際、彼が僕のために選んでくれプレゼントしてくれた、スエードの編み上げのブーツがある。現在のシルバノ・マッツァのラスト(=木型)とは、少し変わっているが、しかし両者には紛れもないシルバノ・マッツァだけの共通した普遍のスタイルを感じとることができる。ポルシェのような、ロレックスのような靴を作りたい、といった彼の言葉が蘇ってくる。 僕は、久々に、シルバノ・マッツァを履いてみたくなった。 |
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 |  | インポーターの直営店
シルバノ・マッツァが世界的な注目を浴びる少し前の 1994 年、その才能を高く評価した日本人がいた。現在、シルバノ・マッツァのインポーターをつとめるヒットマンの加藤達氏である。本文中、モンテグラナーロのシルバノ・マッツァの工場を訪ねた時、その案内役を買ってくれたのも、この加藤氏だった。その時、目撃した光景は、ちょっと忘れられない。なんせ、この加藤氏、天下のシルバノ・ソリーニを前に彼の試作品を手にして、あれこれと意見をしちゃうのである。もちろんプライドの高いソリーニは一歩も引かない。口角泡を飛ばしての激しいやりとりはハタから見ていると冷や汗ものだったが、工場のスタッフによれば、いつもふたりはこんな感じなのだという。確かに、ひとしきり意見を戦わせた後のふたりは、うってかわったような親密ぶりで、なんだか年の離れた無二の親友のように見えた。おそらく、こと靴に関してはソリーニに負けず劣らずの持論を持ち、日本人離れした押しの強さでものおじせず言いたいことをいう加藤氏のことを、ソリーニ氏は心から信頼を寄せていたに違いない。 その加藤氏が社長をつとめるヒットマンの直営店が、青山にあるトロカデロである。このショップでは、シルバノ・マッツァをはじめ、ヒットマンがプロデュースするオリジナルのイタリア生産の靴などを手に入れることができる。ちなみに、この企画に当たって今回お借りしたのは、イタリアのドライビングシューズとアメリカのデッキシューズを融合させたような春夏らしいスリッポン 47,000 円、正面から見た様が猿に似ていたことからモンキーと呼ばれる、シルバノ・マッツァでは定番として人気の高いモンキーブーツ 60,000 円、左足のアッパー部分にモーターバイクのチェンジペダル操作を考慮して補強のレザーをあしらったサイドゴアブーツ 60,000 円である。
問い合わせ先:ヒットマン プレスルーム Tel:03-3481-5966 |
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