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tab_star2001/05/17tab_end60年代のアメリカ
エメコチェア 1006
Masterpieces of The 20th Century
クラフトマンシップとテクノロジーが融合したアルミ合金椅子は
機能追究から生まれた、究極のアノニマスデザイン。
選択、文章:山口 淳
撮影   :四宮義博
協力   :hhstyle.com

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山口 淳_プロフィール_写真Sicon_home山口 淳
[ライター]
北欧のミッドセンチュリーの頃の椅子やプロダクトに魅せられて、かれこれ 10 年になる。縁あって、雑誌『太陽』の北欧デザイン紀行特集(2000 年 12 月号)の手伝いをしたことがきっかけで、2001 年には池袋コミュニティカレッジの「北欧インテリア入門」という講座の講師を引き受けるという貴重な体験もさせていただいた。正直、後者については、慣れないおしゃべりに加え、体系的に勉強したわけではないので馬脚をさらすのではないかと冷や汗ものだったが、この度、その特集と講座がベースとなった書籍『太陽レクチャーブック 003 北欧インテリア・デザイン』(平凡社)という本が刊行された。主要執筆者は、僕を除けば、島崎信さん、柏木博さん、織田憲嗣さんといった北欧やデザインの優れた識者、論客ばかりで、北欧デザインに興味のある人にとっての格好な入門書に仕上がっている。ご高覧いただければ、幸いである。
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お尻のカタチに凹凸があり、見た目よりも座り心地がよい
アノニマスな椅子

 アノニマスデザインと呼ばれるプロダクトが世の中にある。直訳すれば、匿名(あるいは無名)デザイン。つまり、誰が作ったのかよく分からない出自不明のデザインという意味だ。広義の意味でいえば、作り手の美学や必要のない意匠を取り去った、
機能性と実用性を徹頭徹尾追求したデザインということになるだろうか。作り手の美意識や自己顕示欲から生まれた、特異なフォルムや本来の機能とは何の関係もない意匠やディテールで目を引くデザインと、いわば対極にあるのが、アノニマスデザインといっていいだろう。たとえば、野球のボール、登山用のピッケル、あるいはミリタリーウォッチ。ある目的にとっては不可欠ではあるけれど決して特別ではない、しかし完成度が極めて高い、普遍にして不変のデザイン。アノニマスデザインは、また、心ある職業デザイナーたちが、プロダクトの理想の姿として目指している究極の機能美デザインでもある。

 アメリカでネイビー御用達として知られるエメコ 1006 は、エットーレ・ソットサス、テレンス・コンラン、フィリップ・スタルク、あるいはフランク・ O ・ゲイリーといった、現代デザインを代表する錚々たる面々が、自宅や彼らが手がけたホテル、レストランといった商業施設で頻繁に使用していることでも有名な椅子である。一見しただけでは何の変哲もない椅子にみえる。しかし、軽量の特殊なアルミニウム合金で作られる、この椅子は、ネイビーチェアとしての本来の機能と実用を実現するため、途方もない手間と時間と金をかけ開発され、誕生した椅子で、その製造にはなんと 77 もの工程を必要とする。しかも、その工業製品ライクな外観からは想像がつきにくいのだが、製品の品質を何よりも優先しているため、製作には熟練工が当たり、熱処理、溶接、加工など必要な工程では、今なおその熟練工たちの手作業ならではの優れた仕事が随所に発揮されている。

 1006 は誕生して約半世紀になるが、素材、デザイン、製造工程に至るまで、かつてと何ら変わることなく、バカ正直なまでに実直に作られ続けている。 20 世紀生まれの量産品とはいえ、そのテクノロジーとクラフトマンシップを絶妙に融合させたモノ作りの姿勢は、 19 世紀の革新的な量産椅子の傑作トーネットをどこか彷彿とさせる。エメコ 1006 は、まさに、 20 世紀のアメリカを代表する、アノニマスデザインの傑作なのだ。
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すっきりとした飽きのこないデザイン
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現在のオーナー グレッグ・バックバインダー
米海軍の強い要望で誕生

 アメリカ海軍からの強い要望で ALCOA ( Aluminum Corporation of America )が、軽く、頑強で、潮風や海水にさらされる船上や潜水艦でも錆びないアルミニウムの椅子の試作に着手したのは、 1920 年代後半のことといわれている。その研究と開発には、軍事目的ならではの通常では考えられない、資金、人、時間が投入され、プロトタイプが完成したのは、なんと第二次大戦後のことであった。

 そして、アメリカ海軍とALOCAの科学者、エンジニアのその共同開発チームが、実際の量産工場として白羽の矢を立てたのが、 1944 年にペンシルバニアのボルチモアに設立された工具や鋳型の製造を手がけていた Electric Machine and Equipment Company というメーカーだ。やがて 1947 年に頭文字をとって EMECO と改称される、このメーカーが、つまりエメコ社のルーツというわけだ。アルミニウムチェアは、このエメコ社によって、さらに改良が重ねられ、 1950 年代に遂にデザイン、品質ともに完璧な椅子が誕生する。エメコ 1006 である。

 究極の実用椅子 1006 を完成させたエメコ社は、その後、軍艦、潜水艦、軍の食堂、病院などへ納品するためフル稼動で量産体制に突入。 1950 年代、 1960 年代にはそれこそ注文に生産が追いつかない活況ぶりを呈する。冷戦時代には、 500 人以上もの社員を抱え、自社工場には線路が引き込まれ、一度に何百脚、何千脚もの椅子を列車で納品していたというから、それはエメコ社が我が代の春を謳歌した軍との蜜月の日々だったといっていいだろう。

 ところが、冷戦が終結し、新たな軍艦や潜水艦の製造が中止されると、政府からの注文は当然のように徐々に減少してしまう。頑強でサビに強い半永久的にメンテナンスフリーの椅子という、エメコチェア最大のセールスポイントは、そうなると弱り目にたたり目。かえってじり貧に拍車をかけるデメリットになってしまう・・・。

 転機が訪れるのは、 1990 年代に入ってからのこと。世界中の名だたるデザイナーやクリエイターから 1006 が絶大なリスペクトを受けていることを知った現オーナー グレッグ・バックバインダーが、販売チャンネルを政府からハイエンドユーザーを対象としたインテリアショップに切り換え、新しい顧客を開拓することに力を入れ始めたのである。現在、ニューヨークのパラマウントホテルやロスのモンドリアンホテル、有名なカフェ ニューヨークベーグルやセレブリティ御用達として知られるミスター・チャウズ・レストラン、音楽チャンネル MTV のオフィスなど、世界中の最先端のホテル、レストラン、カフェ、オフィスなどで、 1006 が見られるようになったのも、その方向転換の成果の表れである。

 最近では、フィリップ・スタルクが 1006 をベースにリ・デザインした、ハドソンチェアというポリッシュ仕上げの美しい椅子をエメコ社から発表して、デザイン雀の間で話題をさらったニュースが記憶に新しい。生産数は往時には比べようもないが、 1006 をはじめとするエメコの椅子や机は、徐々に売り上げを伸ばし確実に市場に再定着しつつある。

 再評価されたアノニマスデザインの傑作品エメコ 1006 は、全天候型で、熱反射に優れ、磁気を帯びないという特徴から、パーソナルユースのガーデンチェア、あるいは同素材の机とコーディネイトしてデスクトップのコンピュータ用の椅子としても、お薦めである。
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ハイエンドショップの新定番

 映画「マトリックス」や高視聴率 TV ドラマ「ビューティフル・ライフ」などでもエメコ1006 はカメオ出演を果たしていた。原宿のキャットストリートにある、ハイエンドのインテリアショップ hhstyle.com でも、チャールズ・イームズ、エットーレ・ソットサス、ドローグデザインといった有名デザイナーが手がけた名作椅子と並んで、 1006 が売られている。 1006 には、 8 色のカラーバリエーションがあり、肘かけつき、キャスターつき、といった仕様違いの別モデルなどもある。写真はもっともオーソドックスなオリジナルの EMECO 1006 。 W 41 cm × D 50 cm × H 86 cm。重量 3.18 kg 。 48,000円 

問い合わせ先:hhstyle.com / 03-3400-3434
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emeco
http://www.emeco.net
エメコのオフィシャルサイト。プロダクト情報他
hhstyle.com
http://www.hhstyle.com/
様々なデザイナーズアイテムをそろえる shop 。オンラインショッピングも可能。
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