 |  |  |  | 2002/03/28 |  |  | デイリーユースのフレンチスタンダード |  |
| | セント・ジェームスのバスクシャツ | | セント・ジェームスのバスクシャツ |  | 1923 年、あるスタイルセッターの発見によって 船乗りのユニフォームは小粋なリゾートウエアになった |  | 選・文:山口 淳 写真 :四宮義博 協力 :SAINT JAMES bis
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|  |  |  |  |  |  | 山口 淳 [ライター] |  |  |  | | 北欧のミッドセンチュリーの頃の椅子やプロダクトに魅せられて、かれこれ 10 年になる。縁あって、雑誌『太陽』の北欧デザイン紀行特集(2000 年 12 月号)の手伝いをしたことがきっかけで、2001 年には池袋コミュニティカレッジの「北欧インテリア入門」という講座の講師を引き受けるという貴重な体験もさせていただいた。正直、後者については、慣れないおしゃべりに加え、体系的に勉強したわけではないので馬脚をさらすのではないかと冷や汗ものだったが、この度、その特集と講座がベースとなった書籍『太陽レクチャーブック 003 北欧インテリア・デザイン』(平凡社)という本が刊行された。主要執筆者は、僕を除けば、島崎信さん、柏木博さん、織田憲嗣さんといった北欧やデザインの優れた識者、論客ばかりで、北欧デザインに興味のある人にとっての格好な入門書に仕上がっている。ご高覧いただければ、幸いである。 |  |
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 |  |  | ラルティーグの横縞シャツ
先日、とあるショップの絶版写真集を扱うコーナーでふと足が止まった。大好きな写真家のひとりジャック=アンリ・ラルティーグの見たことのない 1 冊の写真集が目に入ったからだ。足が止まったのは、イエローベースにラルティーグ本人のスナップ写真が何枚もあしらわれている、その表紙がとても印象的だったせいもあった。色づかいといい、構成といい、フレンチスパイスが程良く利いていて実にいい感じなのである。なんといってもラルティーグのバスクシャツ姿がいい。ラルティーグ好き、バスクシャツ好きの人間としては、この組み合わせはかなりツボにきた。 レコードでジャケ買いがあるのだから、写真集の表紙買いがあってもいいよなぁ、と悩みに悩んだ末、結局見送ってしまった。価格が表紙以上に可愛くなかったからだった。絶版系写真集や作品集は一期一会だから、と衝動買いを良しとしている僕にしては、このパターンはかなり珍しい。たぶん、マイケル・クーパーの豪華限定写真集とベン・シャーンのある作品集以来のケースではないだろうか。再び、訪れて、売れてしまったことを知れば後悔するのはまず間違いないのだが、これもまた巡り合わせというものだろう。 閑話休題。話が横道にそれてしまった。今回のお題は、そのラルティーグが着ていたバスクシャツついてだった。 バスクシャツ。ボーダー T と呼ぶ方がピンとこられる向きも多いだろう。横に広いボートネックと呼ばれる襟とラフに切り落としたような袖口、裾。そして、ネイビーと白(現在ではいろんな組み合わせがあるが)のシンプルではっきりした横縞が特徴の、このカジュアルなシャツは日本でもロングスリーブのコットンシャツとして長らく定着している。このバスクシャツ、その起源を辿ってゆくと16世紀にまで遡る。スペインのバスク地方の船乗りたちが愛用していた手編みのウール、あるいはコットン素材のものがそれだ。バスクシャツは、もともとは屈強なバスクの船乗りたちが愛用した武骨なハンドメイドの実用服だったのである。つまり海の男たちの実用服としてはイギリスのガンジーセーターと並ぶ、超ロングセラーという理屈になる。いや、これはあくまで推測でしかないが、ガンジーセーターの発祥地といわれるチャネル諸島はフランスの影響のとても濃い地理的環境にあるから、案外その起源は、かなりシンクロしているのでは、という気がしないでもない。 服飾史を紐解くと、船乗りの実用服だったバスクシャツがファッションアイテムとして脚光を浴びたのは 1923 年のこと。キッカケを作ったのは、南仏アンチーブ岬に居を構えていたアメリカ人の芸術家ジェラルド・マーフィー(後のマーク・クロス社社長)という人物だったらしい。マーフィーは、その白と青の横縞のフレンチセーラー・ジャージーを南仏の船乗り向け衣料の卸問屋で偶然、発見。それをいたく気に入り、同じ卸問屋で見つけたエスパドリーユ(やはりスペイン、フランスの船乗りが愛用していたスリッポンタイプの作業靴で、ロープソールと呼ばれる黄麻で編まれたソールをその大きな特徴とする)とともにリビエラ海岸でお披露目。その姿が高級リゾートでヴァカンスを楽しんでいた人々の注目を集め、バスクシャツとエスパドリーユは 1930 年代から 1940 年代にかけて欧米のリゾート地で大流行することになったといわれている。 最近ではデザイナーのジャン=ポール・ゴルチェがこのシャツの愛用者としてよく知られているが、かつてスタイルセッターと呼ばれた洒落者たちの中にもこのカジュアルな横縞シャツを愛用した男たちは少なくない。ウィンザー公、ケーリー・グラント、ラルティーグなどがそうだが、とりわけこのバスクシャツをトレードマークのように着こなした人物として有名なのは、あのパブロ・ピカソだった。
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 |  | ピカソのド定番服
ピカソの作品集などでも、このシャツを着用した彼のポートレイトやスナップ写真が数多く紹介されているが、最も有名な一枚となると巨匠ロベール・ドアノーが撮ったダイニングで撮られたとおぼしき写真だろう。計算つくされた構図を、まるでスナップ写真のように自然に撮ることにかけて当代一と謳われるドアノーだが、このユーモラスな写真は、なかでも彼の代表作としてもよく知られている。カメラから視線をはずすようにテーブルを前に腰かけるピカソ。ふとテーブルの上に目をやると、まるでグローブのような巨大な手がそえられている。ギョッとして、よく見ると、それはパンだった!というオチである。この写真は、ドアノーの名声を一層高めることにも貢献したが、一方でこの横縞シャツを一躍有名にした歴史的一枚ともなった。 この時ピカソが着用しているのがくだんのバスクシャツ(写真参照)である。メーカー名は不明だが、伝え聞くところによればピカソが着ていたのは当時フランス海軍がユニフォームとして正式採用していたメーカーが作っていた本物のバスクシャツだったようだ。 今やベーシックなストライプ以外にもマルチストライプ、無地など、さまざまなバリエーションをラインナップし、日本でもミュージシャンの coba や料理研究家でエッセイストのパトリス・ジュリアンのトレードマークとしても知られ、すっかり東京の日常風景の一部として定着した、このバスクシャツの良さは、さほどコーディネイトを選ばず、気軽にデイリーウエアとして愛用できることにつきるだろうか。ガンガン洗濯機で洗い、少々、くたびれてきたくらいがいい味を醸し出すところなどは、オックスフォードのボタンダウンシャツやキャンバスのスニーカーなどに相通じる魅力もある気がする。 余談になるが、このバスクシャツが日本のストリートファッションで注目を浴びるきっかけを作ったのは、どうやらセレクトショップのシップスだったようだ。当時、インポートショップといえば、アメリカやイギリスのアイテムが中心だった時代、シップスはいち早く、フランチテイストのスタンダードなデイリーウエアに注目し、このバスクシャツとエスパドリーユを取りあげた。今から四半世紀近く前のことである。 当時、シップスのオープンのために、その交渉役にあたった河村哲雄さん(現インターブリッジ代表)に、以前、聞いた話によれば、当時、伝統的なバスクシャツを製造しているメーカーは数社あったものの、そのほとんどは生成りかホワイトにネイビーのボーダー柄のトラディショナルなタイプしか作っておらず、そのうちのある工場を強引に説得して河村さんは、シップスのために9色のバスクシャツを作ってもらったのだそうだ。 今やバスクシャツも有名なセント・ジェームスをはじめ、多くのメーカーやブランドが様々なバリエーションをラインナップするようになったが、案外、そのキッカケを作ったのは、日本だったのかも知れないと思うと、なかなか痛快な話ではある。
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 |  |  |  |  | SAINT JAMES bis 東京都渋谷区神宮前6-23-6 |  |
|  |  | 海軍御用達の名門
フランスには、バスクシャツを製造するメーカーはいくつかあるが、最も有名なブランドとなると、ノルマンディのセント・ジェームスに本拠を置く、トリコット・セント・ジェームス社のセント・ジェームスだろう。もともとニット産業が盛んだったこの町に同社が設立されたのは 1889 年のこと。果たしてピカソやラルティーグが着用したトラディショナルなバスクシャツが、セント・ジェームスのものなのかどうかは断定できないが、セント・ジェームスのバスクシャツは実際に海軍のユニフォームとしても採用され、その仕様と同じものをレプリカ版として製造していたらしいから、その可能性は少なからずあるといっていいだろう。今回、大きく取りあげた人気モデルナバルは、ピカソ着用のバスクシャツと同タイプのクラシック柄の定番品(8,800 円)で現在もショップで購入することができる。他にも、写真のようにさまざまなタイプのボーダー柄、無地(各 7,300 円)がある。 問い合わせ先:SAINT JAMES bis tel:03-5469-2999
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